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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)138号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について検討する。

1 本件両意匠の内容並びにその一致点及び相違点等について

甲号意匠に係る物品も墓前花立筒であつて、本件意匠及び甲号意匠に係る物品は同一であること、本件意匠の内容は別紙第一記載のとおりであり、甲号意匠の内容は別紙第二記載のとおりであること、本件意匠及び甲号意匠の各形態の基本的構成態様及び具体的構成態様は、甲号意匠における花立て部の口径に対する底径の比率の点を除き、審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第四号証(昭和五一年実用新案出願公開第一四三〇〇〇号公報)によれば、甲号意匠において、花立て部の底径と口径との比は約〇・六二対一であること、台座の環状鍔部の直径は、正確には花立て部の口径一に対して一・一七の比率であること、台座の環状鍔部の下面に、脚筒部の上部の外壁から環状鍔部の周縁側に向けて十字状の四本のリブが設けられていることが認められ、成立に争いのない甲第七号証(本件意匠の意匠登録願書)によれば、本件意匠において、台座の環状鍔部の直径は、正確には花立て部の口径一に対して〇・七五の比率であることが認められる。

右事実に基づいて両意匠の形態を対比すると、両意匠は、筒体の口部を朝顔状に拡開した花立て部の下端に、脚筒を有する伏皿状の台座を嵌合した基本的構成態様において一致しており、具体的構成態様については、花立て部が、逆円錐台形状の有底筒体の口部を拡開して朝顔状にしており、底部に一回り小さい径の短円筒状の突出部を設けてその外周にネジ山を現わしたものである点、台座は、伏皿状の環状鍔部と脚筒部から成り、環状鍔部の平面の中央に花立て部の突出部を嵌合する大きさの円孔を設けたものであり、脚筒部は、上下の径を違えた有底の円筒で環状鍔部の円孔から下垂させており、上部の内周にネジ山を現わし、下部は上部より一回り小さい径とした点において一致しているが、本件意匠の花立て部は、口径一に対して高さ約二、底径約〇・五の比率であるのに対し、甲号意匠の花立て部は、口径一に対して高さ約一・八、底径約〇・六二の比率である点、本件意匠の台座の環状鍔部の直径は、花立て部の口径一に対して約〇・八(正確には〇・七五)の比率であるのに対し、甲号意匠の台座の環状鍔部の直径は、花立て部の口径一に対して約一・一(正確には一・一七)の比率である点(なお、環状鍔部の高さは、両意匠共花立て部の口径一に対し約〇・一の比率であつて、この点は一致している。)、本件意匠の台座の脚筒部の高さは、花立て部の口径一に対して約〇・三の比率であるのに対し、甲号意匠の台座の脚筒部の高さは、花立て部の口径一に対して約〇・四の比率である点、台座の環状鍔部について、本件意匠は、断面形状が全体的にほぼ同一曲率の1/4円凸弧面状であるのに対し、甲号意匠は、断面形状が中央部分を僅かに下降傾斜面とし、外周部分を1/4円凸弧面状とした扁平なものである点、脚筒部の底板について、本件意匠は、底部に設けているのに対し、甲号意匠は、脚筒部の上部と下部との段差部の内側に設けており、脚筒部の底部は開口している点、本件意匠においては、台座の脚筒部の底板の中央に底板の直径の1/2の長さを一辺の長さとする正方形の孔を設けているが、環状鍔部の下面には、甲号意匠にみられるようなリブは存しないのに対し、甲号意匠においては、前記底板には小穴が設けられているにすぎないが、台座の環状鍔部の下面に、脚筒部の上部の外壁から環状鍔部の周縁側に向つて十字形の四本のリブを設けている点において、本件意匠と甲号意匠とは相違していることが認められる。

原告は、具体的態様のうち、花立て部の朝顔状に拡開した開口部の拡開の程度は、本件意匠において顕著であり、甲号意匠との間に明瞭な差異がある旨、及び本件意匠は肉薄のものであるのに対して甲号意匠は肉厚のものである旨主張するが、前掲甲第四、第七号証によれば、花立て部の開口部の拡開が始まる部位における直径の口径(最大開口部位の直径)一に対する比率は、本件意匠においては〇・七八、甲号意匠においては〇・八三であり、他方、開口部を構成する周壁の斜め上下方向の長さは本件意匠の方が甲号意匠よりも長いが、全体的にみれば拡開の程度につき両意匠間には顕著な差異はなく、また、肉厚の点でも、両意匠間に相違点として取り上げなければならない程の差異はないものと認められるから、原告の右主張は採用できない。

2 本件両意匠の要部と本件両意匠の類否

意匠に係る物品を墓前花立筒とする意匠において、花立て部の下端に脚筒を有する台座を嵌合した構成が、本件意匠の意匠登録出願前公知であつたことは当事者間に争いがなく、右事実及び右公知の形状は請求の原因三、(1)、(一)ないし(四)掲記の実用新案出願公告公報、実用新案出願公開公報に記載されているものであり、しかもこのうち(一)、(二)の実用新案出願公告公報は昭和三四、三五年中に発行されたものであること(これらの点も当事者間に争いがない。)に照らすと、本件意匠及び甲号意匠に共通する基本的構成態様のうち、前記の構成は周知のものであつて、特に看者の注意を惹く部分ではないと認めるのが相当である。

のみならず、当事者間に争いがない請求原因三、1、(一)掲記の事実及び成立に争いのない甲第九号証(昭和三四年実用新案出願公告第一八〇八〇号公報)によれば、同公報には、名称を「琺瑯製墓地用花立」とする考案につき記載されており、その意匠の内容は別紙第三記載のとおりであつて、筒体の口部は朝顔状に拡開し、台座は伏皿状のものであることが認められ、右事実によれば、本件両意匠に係る物品と同種の物品において、筒体の口部を朝顔状に拡開し、台座を伏皿状とした形態も、本件意匠の意匠登録出願前によく知られたものであると認められることからすれば、本件両意匠に共通する、花立て部の筒体の口部を拡開して朝顔状にし、右花立て部に嵌合した台座を伏皿状にした基本的構成態様も、特に看者の注意を惹く部分ではないと認められる。

以上説示した点及びこの種物品の用途等を併せ考慮すると、本件両意匠においては、前記基本的構成態様を骨格とする意匠全体の中における花立て部の口径、高さ、底径相互の比率によつてもたらされる形状の特徴、及び台座の環状鍔部の形状の特徴、言い換えれば、前記のような花立て部と台座とを嵌合した状態で感得されるこれらの各形状の特徴こそが看者の注意を惹く部分であつて、この点が両意匠の要部(審決にいう意匠の類否を左右する支配的要素)であるから、本件両意匠の類否は右形状の特徴を全体的に観察して判断すべきものと解するのが相当である。

ところで、前記のとおり、本件意匠の花立て部は、口径一に対して高さ約二、底径約〇・五の比率であるのに対し、甲号意匠の花立て部は、口径一に対して高さ約一・八、底径約〇・六二の比率であつて、本件意匠の花立て部は、甲号意匠との対比において、口径に対する高さの比率が大きく、一方、底径の比率は小さいものであるから、本件意匠の花立て部は重心が高く、かつ、ほつそりとした印象を与え、甲号意匠のそれは重心が低く、かつずんぐりとした、安定感のある印象を与えるものと認められることに加えて、本件意匠の台座の環状鍔部の直径は、花立て部の口径一に対して約〇・八(正確には〇・七五)の比率であり、しかも環状鍔部の全体が略同一曲率1/4円凸弧面状であることとあいまつて、花立て部に台座を嵌合した状態においては、前記の印象が更に強まるのに対し、甲号意匠の台座の環状鍔部の直径は、花立て部の口径一に対して約一・一(正確には一・一七)の比率であり、しかも環状鍔部は中央部分を僅かに下降傾斜面とし、外周部分を1/4円凸弧面状とした扁平なものであることとあいまつて、花立て部に台座を嵌合した状態においては、前記の印象がいつそう強まるものと認められる。

そして、本件意匠と甲号意匠におけるこれらの相違は、前記両意匠に共通する基本的構成態様及び具体的構成態様によつてもたらされる美感を凌駕し、両意匠をして別異の美感を生ぜしめるものと認めるのが相当である。

右認定及び説示の趣旨に反する被告の主張は採用できない。

以上説示したところに徴すれば、本件両意匠の要部の確定に当たり、筒体の口部を朝顔状に拡開した花立て部の下端に、脚筒を有する伏皿状の台座を嵌合したという本件両意匠の一致している基本的態様が本件両意匠の類否を左右する支配的要素であるとした審決の判断、相違点1)について、「全体の構成比における差異」により、本件意匠が「過分数的な印象」を与えるのに対して、甲号意匠は、「全体的にずんぐりし、重心の低い印象」を与えるという点は極めて微少な差異であり、その差異が意匠全体に与える影響は非常に小さく、微差にとどまるとした審決の判断、及び相違点2)について、台座の環状鍔部の径の比の差異も、本件両意匠の類否判断においては微差にとどまるとした審決の判断(右判断が審決自身が相違点2)として摘示した点に対する判断となつているかどうかは措く。)はいずれも誤つているといわざるを得ない。

3 次に、弁論の全趣旨によれば、本件意匠及び甲号意匠の意匠に係る物品である墓前花立筒の取引関係において主たる需要者の立場に立つのは墓石業者であることが認められる。したがつて、本件意匠と甲号意匠との類否を判断するに当たつては、右のような需要者がこの種物品購入の選択をする際に、当該物品に表出された形状等の意匠のどの部分に特に着目するかという観点からも具体的に検討すべきものである。

ところで、墓石業者は、墓前花立筒を購入するかどうかの選択をするに当たつては、個々の顧客ないし最終需要者(墓石を建立し、あるいは墓前花立筒を設置する者)の関心が向けられるのと同様に、花立て部と台座とを嵌合して花立筒を設置した状態における美感を選択の基準とすることはいうまでもないが、それと同時に、通常、当該墓前花立筒の台座の墓台石に対する定着手段がどのように講じられているかという点についても関心を持つて臨むものと認めるのが相当であるから、とりわけ右定着手段の形状がどのようなものであるかは本件両意匠の類否を判断する重要な契機となるものというべきである。

被告は、台座につき、墓台石への定着手段がどのように講じられているかは、当該物品の性能、能力に関するものであつて、技術を吟味する取引の場におけるものであり、審美感を吟味する取引の場におけるものではなく、技術を吟味するために注目されるからといつて、その注目される部分の形態が意匠の類否判断の場で採用されるわけではない旨主張する。

右定着手段自体はもとより技術的事項であるが、右手段を形状的に現わしたものは意匠であり、前記認定のような関心を持つ需要者が彼此商品の選択を行う場合に定着手段に係る意匠の部分に注意を払うことはむしろ当然のことであるから、被告の右主張は理由がないものというべきである。

ところで、本件意匠においては、台座の脚筒部の底板の中央に正方形の孔が設けられているが、環状鍔部の下面には、甲号意匠にみられるようなリブは存しないのに対し、甲号意匠においては、底板には小穴が設けられているにすぎないが、台座の環状鍔部の下面に、脚筒部の上部の外壁から環状鍔部の周縁側に向つて十字形の四本のリブが設けられていることは前1項において認定したとおりであるが、弁論の全趣旨によれば、右正方形の孔及び十字形の四本のリブは、台座を墓台石に定着させた場合に、台座が回転しないために設けられているものであることが認められる。

右のとおり、本件意匠及び甲号意匠に現わされている台座の墓台石への定着手段の態様は著しく相違しているものと認められるから、この点からいつても、本件意匠と甲号意匠との類似性は稀薄なものであるといわざるを得ない。審決は右の相違点を看過した誤りがある。

以上のとおりであつて、本件意匠と甲号意匠とは類似しているとして本件意匠の登録を無効にした審決は、その判断の過程においてさきに説示したような認定、判断の誤りを犯したものであり、これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法であるというべきである。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める本訴請求は、原告主張のその余の点について判断するまでもなく正当であるから、これを認容する。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

第二 請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「墓前花立筒」とし、昭和五二年四月一四日の出願(昭和五二年意匠登録願第一三五二二号)に基づき、昭和五五年一二月二五日に登録された登録第五五〇七〇九号意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるところ、被告は、昭和五六年五月三〇日、本件意匠の登録を無効にすることについて審判を請求し、昭和五六年審判第一一五五九号事件として審理された結果、昭和六〇年七月一一日、本件意匠の登録を無効とするとの審決があり、その謄本は同月三一日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本件意匠の内容は、その登録出願の願書及び願書に添附した図面の記載全体から、別紙第一に示したとおりのものである。

その意匠の形態の要旨は、筒体の口部を朝顔状に拡開した花立て部の下端に、脚筒を有する伏皿状の台座を嵌合した基本的な構成態様のものである。

その具体的な態様についてみると、花立て部は口径一、高さ約二、底径約〇・五の比率とした逆円錐台形状の有底筒体の口部を拡開して朝顔状にしており、底部に一回り小さい径の短円筒状の突出部を設けて、その外周にネジ山を現わしたものである。台座は、伏皿状の環状鍔部と脚筒部からなり、環状鍔部は、直径が花立て部の口径の約〇・八、同じく高さが約〇・一の比率のもので、断面形状が1/4円弧状の凸弧面状に形成したものであつて、平面の中央に花立て部の突出部と嵌合する大きさの円孔を設けたものであり、脚筒部は、高さが花立て部の口径の約〇・三の比率の上下の径を違えた有底円筒で環状鍔部の円孔から下垂させており、上半分の内周にネジ山を現わし、下半分は上半分より一回り小さい径とし、底板の中央に正方形の孔を穿つたものであつて、花立て部と台座とを螺着したものである。

2 昭和五一年一一月一七日公開の昭和五一年実用新案出願公開第一四三〇〇〇号公報(考案の名称「墓前花立筒」)に記載された意匠(以下「甲号意匠」という。)の内容は、別紙第二に示したとおりのものである。

その意匠の形態の要旨は、筒体の口部を朝顔状に拡開した花立て部の下端に、脚筒を有する伏皿状の台座を嵌合した基本的な構成態様のものである。

その具体的な態様についてみると、花立て部は口径一、高さ約一・八、底径約〇・五の比率とした逆円錐台形状の有底筒体の口部を拡開して朝顔状にしており、底部に一回り小さい径の短円筒状の突出部を設け、その外周にネジ山を現わしたものである。台座は、伏皿状の環状鍔部と脚筒部からなり、環状鍔部は、直径が花立て部の口径の約一・一、同じく高さが約〇・一の比率のもので中央部分を僅かに下降傾斜面とし、外周部分を断面形状が1/4円弧状の凸弧面状に形成した扁平なものであつて、平面の中央に花立て部の突出部と嵌合する大きさの円孔を設けたものであり、脚筒部は、高さが花立て部の口径の約〇・四の比率の上下の径を違えた円筒で環状鍔部の円孔から下垂させており、上約1/3の内周にネジ山を現わし、下約2/3が上の径より一回り小さい径とし、上と下の段差部の内側に小孔を有する底板を設けたものであつて、花立て部と台座とを螺着したものである。

3 両意匠について比較検討すると、両意匠は、意匠に係る物品が一致していると認められるものであり、また、その意匠の形態についても、その要旨につき、筒体の口部を朝顔状に拡開した花立て部の下端に、脚筒を有する伏皿状の台座を嵌合した基本的な構成態様が一致しているものであり、その具体的な態様についても全体の各比率が略同じであつて、花立て部が、逆円錐台形状の有底筒体の口部を拡開して朝顔状にしており、底部に一回り小さい径の短円筒状の突出部を設け、その外周にネジ山を現わしたものである。台座は、伏皿状の環状鍔部と脚筒部からなり、環状鍔部は、断面形状が1/4円弧状の凸弧面状に形成したものであつて、平面の中央に花立て部の突出部と嵌合する大きさの円孔を設けたものであり、脚筒部は、上下の径を違えた有底の円筒で環状鍔部の円孔から下垂させており、上部の内周にネジ山を現わし、下部は上部より一回り小さい径とした態様のものであつて、そのほとんどが共通しているもので、これらの点は両意匠の類否を左右する支配的要素と認められる。

ところが、両者間には、1) 全体的な形態について前記したとおり比率において差異があり、本件意匠が過分数的な印象を与えるのに対して、甲号意匠は全体的にずんぐりとし、重心の低い印象を与える点、2) 台座の環状鍔について、本件意匠が全体を略同一曲率の1/4円凸弧面状であるのに対して、甲号意匠は、中央部分を僅かに下降傾斜面とし、外周部を1/4円凸弧状とした扁平なものである点、3) 脚筒部の底板について、底部に設けたか段差部に設けたかの差異が認められる。

しかしながら、1)の点については、全体の構成比における差異であるが、これは極めて微少な差異であり、朝顔状に拡開した開口部寄りから下端部に向つて直線状のテーパーにして下端部を口径の略〇・五の比の径とした外観形状を視認するとき、その差異が意匠全体に与える影響は非常に小さく微差にとどまる。2)の点については、環状鍔の態様が浅い伏皿状である点及び花立て部と台座を嵌合した意匠全体の態様を勘案したとき、その印象が強く環状鍔の径の比の差異を凌駕しており、両意匠の類否判断に与える影響はこの程度の差異ではいまだほとんど微差にとどまるといわざるを得ない。3)の点については、花立て部を台座に嵌着する態様の両意匠にあつて、脚筒部における底板は嵌着した態様において全く目視することができない部分であり、嵌脱時には目視することができたとしても、底板部分について意匠全体として見た場合意匠創作上の主要部とすることができない部分であつて、両意匠の類否判断に与える影響はほとんど認められない。また、意匠全体からみた場合極めて限られた部位における差異であり、意匠全体に与える影響も小さく、したがつて両意匠の類否判断に与える影響もいまだこの程度では微差にとどまるというほかない。

そうとすれば、両意匠の形態について、一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしたその具体的な態様によつて表象される“まとまり”が共通し、これから生ずる美感をも共通にすることとなり、両者は類似であることを免れない。

4 以上のとおり本件意匠は、甲号意匠と前記の各差異点が認められるが、その余における基本的な構成態様が一致し、その具体的な態様によつて表象される意匠的まとまりが共通している以上、甲号意匠に類似するものといわざるを得ない。

したがつて、本件意匠は、意匠法第三条第一項第三号に規定した意匠に該当するものであり、その意匠登録は、同条第一項の規定に違反してなされたものであるから、無効にすべきものである。

三 審決の取消事由

本件意匠の内容が別紙第一記載のとおりであり、甲号意匠の内容が別紙第二記載のとおりであること、及び甲号意匠に係る物品が墓前花立筒であることは審決認定のとおりであり、また、本件意匠と甲号意匠の各形態の基本的構成態様及び具体的構成態様が、甲号意匠における花立て部の口径に対する底径の比率を除き、審決認定のとおりであることはいずれも認めるが、審決は、両意匠を対比するに当たり、基本的構成態様のうち花立て部の下端に、脚筒を有する台座を嵌合した点を両意匠の類否を左右する支配的要素であると誤つて認定、判断し、さらに、審決認定の両意匠の相違点に対する判断を誤り、かつ、両意匠の間に存する相違点を看過、誤認し、その結果、本件意匠は甲号意匠に類似するものと誤つて認定、判断したものであつて違法であり、また、審決には、意匠法の解釈を誤り、本件意匠の新規性を否定した違法がある。

1 基本的構成態様の一部を両意匠の類否を左右する支配的要素であるとした認定、判断の誤り

本件意匠と甲号意匠とは、共に墓前花立筒に関するものであつて、いずれも花立て部の下端に脚筒を有する台座を嵌合したものであるが、このような構成を有する墓前花立筒は、次に述べるとおり本件意匠の意匠登録出願前周知であつたから、審決が、本件意匠と甲号意匠との基本的構成態様の一致点であるとした事項のうち、花立て部の下端に脚筒を有する台座を嵌合した点を両意匠の類否を左右する支配的要素であると認定、判断したことは誤りである。

(一) 昭和三四年実用新案出願公告第一八〇八〇号公報(甲第九号証)に記載されている、考案の名称「琺瑯製墓地用花立」の意匠の内容は別紙第三記載のとおりである。

右琺瑯製墓地用花立において、円筒状容器1(本件両意匠の花立て部に相当する。)の底面3と壺脚5(本件両意匠の脚筒部に相当する。)を有する皿状底部6と笠状鍔8(本件両意匠の台座に相当する。)の三重層が電気スポツト溶接されているので、花立て部と台座とが着脱自在とされているという構造は有しないが、花立て部と台座とから成り、かつ、台座が壺脚を有する皿状底部と一体化されることによつて脚筒部を有する点は、本件意匠と同一である。

(二) 昭和三五年実用新案出願公告第三一五八五号公報(甲第一〇号証)に記載されている、考案の名称「墓碑の花立」の意匠の内容は別紙第四記載のとおりである。

右墓碑の花立において、花筒A(本件両意匠の花立て部に相当する。)の下部両側に設けられた支軸1が基部B(本件両意匠の台座に相当する。)の支柱4の縦溝7に嵌入されて上下に滑動するという構造をとつているので、花立て部と台座とが完全に着脱自在という構造は有しないが、花立て部と台座とから成り、かつ、台座には固着杆6(本件両意匠の脚筒部に相当する。)を有する点において、本件両意匠と同一である。

(三) 昭和五一年実用新案出願公開第一二〇八九九号公報(甲第一一号証)に記載されている、考案の名称「墓石用花立具」の意匠の内容は別紙第五記載のとおりである。

右墓石用花立具は、花瓶11(本件両意匠の花立て部に相当する。)と金属製の台座2(本件両意匠の台座に相当する。)とから成り、しかも両者は着脱自在であり、かつ、台座には合成樹脂製の受筒5(本件両意匠の脚筒部に相当する。)を有する点において、本件両意匠と同一である。

(四) 昭和五二年実用新案出願公開第三五四〇〇号公報(甲第一二号証)に記載されている、考案の名称「墓前花立て筒」の意匠の内容は別紙第六記載のとおりである。

右墓前花立て筒は、有底筒体1(本件両意匠の花立て部に相当する。)と基台5(本件両意匠の台座に相当する。)とから成り、しかも両者は着脱自在であり、かつ、台座には有底脚筒9(本件両意匠の脚筒部に相当する。)を有する点において、本件両意匠と同一である。

2 相違点1)に対する判断の誤り

審決は、相違点1)について、「全体の構成比における差異であるが、これは極めて微少な差異であり、朝顔状に拡開した開口部寄りから下端部に向つて直線状のテーパーにして下端部を口径の略〇・五の比の径とした外観形状を視認するとき、その差異が意匠全体に与える影響は非常に小さく微差にとどまる。」としているが、次に述べるとおり右判断は誤りである。

(一) まず、審決は、右判断の前提たる甲号意匠の形状における比率の認定を誤つている。すなわち、審決は、甲号意匠の花立て部の底径と口径との比を約〇・五対一と認定しているが誤りであり、口径一に対して底径〇・六二の比率とするのが正しい。

したがつて、甲号意匠についても、「下端部を口径の約〇・五の比の径とした外観形状」であることを前提とした前記判断が誤つていることは明らかである。

(二) 次に、花立て部の朝顔状に拡開した開口部の拡開の程度は、本件意匠において顕著であり、甲号意匠との間に明瞭な差異がある。墓前花立筒において、開口部は最も看者の目を引きやすいところであるから、右の差異は、両意匠の類似性を否定する決定的なポイントであるというべきである。

また、本件意匠は、その肉薄さの故に全体として軽快、かつ、繊細な感じを呈するのに対し、甲号意匠は、その肉厚さの故に全体として鈍重な感じを呈しており、右の点でも、両意匠の間には明瞭な差異があり、到底これを類似とみることはできないものというべきである。殊に、墓前花立筒の花立て部は、水を取り替える際、花立て部を台座から抜き取つて手に把持して観察されるものであるため、花立て部の軽快さ、鈍重さの差異は、視覚において敏感に感じとられるものである。したがつて、両意匠における右の差異は、両意匠の類似性を否定するうえで、これまた決定的な意味を有するものということができる。

3 相違点2)に対する判断の誤り

審決の相違点2)に対する判断は、次に述べるとおり誤りである。

(一) まず、審決が、本件意匠及び甲号意匠の各台座の環状鍔部の態様を、共に「浅い伏皿状である」とし、それを前提として、「両意匠の類否判断に与える影響はこの程度の差異ではいまだほとんど微差にとどまる」としている点は、本件意匠の台座の環状鍔部の形状についての把握を誤り、ひいて甲号意匠の台座の環状鍔部の形状との比較判断を誤つたものである。すなわち、本件意匠の台座の環状鍔部の形状は平面の部分が全くなく、中央部から外周縁へかけて、その全体が同一曲率の1/4円凸弧状の曲面をなしているもので、これを「浅い伏皿状」とするのは正当でなく、これを形容するならば、「伏碗状」ないし「伏鉢状」とするのが正当である。

甲号意匠の台座の環状鍔部は、その形状が「浅い伏皿状」であるのに対して、本件意匠のそれは、右のとおり「伏碗状」ないし「伏鉢状」であるから、両者間には美感上明白な差異があり、したがつて、それは両意匠の類否判断に影響を及ぼすものといわなければならない。

(二) 次に、審決は、相違点2)について、「花立て部と台座を嵌合した意匠全体の態様を勘案したとき、その印象が強く環状鍔の径の比の差異を凌駕しており、両意匠の類否判断に与える影響はこの程度の差異ではいまだほとんど微差にとどまるものといわざるを得ない。」としている。

しかしながら、本件意匠にあつては、台座の環状鍔部の径の花立て部の口径(一)に対する比率は〇・七五であるのに対し、甲号意匠にあつては、右比率は一・一七である。すなわち、本件意匠にあつては、台座の環状鍔部の径が花立て部の口径の四分の三にすぎないため、花立て部に台座を嵌合した状態でこれを観察するとき、過分数的な、頭でつかちの不安定な印象を与えるのに対して、甲号意匠にあつては、台座の環状鍔部の径が花立て部の口径より一七%大きいので、花立て部に台座を嵌合した状態でこれを観察するとき、土台がしつかりしている安定した印象を与える。このように本件意匠と甲号意匠との間には、台座の環状鍔部の径と花立て部の口径との比の相違に基づく美感上の差異があり、したがつて、それは両意匠の類否判断に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決の前記判断は、両意匠の美感の比較を誤つているものといわなければならない。

4 相違点3)に対する判断の誤り

審決の相違点3)に対する判断は、次に述べるとおり誤りである。

(一) 審決は、「花立て部を台座に嵌着する態様の両意匠にあつて、脚筒部における底板は嵌着した態様においては全く目視することができない部分であり、」と認定しているが、本件意匠における脚筒部の底板は、脚筒部の底部(最下端部)に設けられているから、台座を花立て部に嵌合した場合においても右底板を目視することができるし、甲号意匠における脚筒部の底板は、脚筒部の段差部に設けられているが、脚筒部の段差部より下の部分は円筒形であつて、底部が開放されているため、脚筒部底部の開口部より底板を目視することができる。その状況は、台座を花立て部に嵌合した態様においても全く変りがない。

したがつて、審決の前記認定は誤りであり、審決は、右の誤つた認定を前提として、底板を脚筒部の底部に設けたか段差部に設けたかの差異が両意匠の類否判断に影響を与えないものとしているのであるから、その判断に誤りがあることは明白である。

(二) 次に、審決は、相違点3)について、「意匠全体からみた場合極めて限られた部位における差異であり、意匠全体に与える影響も小さく、したがつて両意匠の類否判断に与える影響もいまだこの程度では微差にとどまる」としている。

しかしながら、墓前花立筒は花立て部と台座の二つの部材から成るものであるから、台座の意匠も二分の一の割合で重要性をもつている。しかも、花立て部と台座とは、流通過程においては別々に包装され、両者を嵌着しない状態で梱包されるのである。このような流通状況に基づいて考えるとき、意匠を、花立て部と台座に嵌合した意匠全体の態様においてのみ評価することは許されず、花立て部と台座に分けて意匠を比較検討すべきであり、審決の前記判断は、両意匠に係る物品の流通過程に置かれる状況を無視したものであつて、その誤りは明白である。

かつまた、両意匠に係る物品は、共に花立て部と台座とをねじにより嵌着する構造のものであり、台座を墓台石に定着して、花立て部は水替えの都度台座から取り外されることになるものであるが、台座が墓台石にしつかり定着されていないと、花立て部の取り外しの際に台座までぐるぐる回つたり、台座ごと墓台石から外れてしまうことになりかねない。そのため、台座につき、どのような墓台石への定着手段が講じられているかは、この種物品の流通過程における取扱業者及び最終需要者である墓石業者にとつて最大の関心事である。

これを、甲号意匠についてみると、台座の裏面(底面)の脚筒部の外側に、台座の回転(共廻り現象)を防止するため十字形の四本のリブが設けられている。これに対して、本件意匠では、右のリブのようなものは一切設けることなく、台座の脚筒部底板に四角の孔を穿設し、脚筒部を墓台石のコンクリート中に埋め込ませることによつて、花立て部の着脱時における台座の回転(共廻り現象)を防止し、台座が墓台石から脱抜するおそれを防止している。

このように両意匠の台座を裏面(底面)から観察した場合、前記のとおり底板を設けた部位について差異が認められるばかりでなく、甲号意匠にあつては十字形のリブが設けられているのに対し、本件意匠にあつては脚筒部の底部に設けられた底板自体に四角の孔が穿設されているという差異が存する。

したがつて、両意匠の台座の裏面(底面)の形状には、美観上明白な差異があり、これが両意匠の類否判断に影響を及ぼすことは明らかである。審決は右の差異を看過、誤認した誤りがある。

5 意匠法の解釈を誤り、本件意匠の新規性を否定した違法

審決の引用した公知意匠(甲号意匠)は、本件意匠の意匠登録出願人である原告自身がした実用新案登録出願に係る墓前花立筒の実施例として示されたものの形状であり、その実用新案登録出願の公開の日(昭和五一年一一月一七日)から本件意匠登録出願の日(昭和五二年四月一四日)までの間に六月を経過していない。

ところで、意匠法第四条第二項、第三項の規定によれば、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して同法第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠について、その該当するに至つた日から六月以内にその者が意匠登録出願をしたときは、その意匠は同法第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかつたものとみなされるのであるが、このいわゆる新規性喪失の救済を受けることができるのは、意匠登録を受ける権利を有する者の登録出願に係る意匠が、その者の行為に起因して同法第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠と同一である場合に限られる。類似の意匠については、意匠法第四条第三項による書面の提出を受け付けないとするのが特許庁の取扱いである。したがつて、たとえ本件両意匠が類似であるとしても、原告が右条項による救済措置を求める余地はなかつたのである。しかしながら、これは、現行法制ないし現行の取扱いの欠陥といわなければならない。けだし、同一意匠について与えられる救済を、類似意匠について否定すべき理由はないからである。したがつて、このような現行法制ないし現行の取扱いの欠陥をもとにして考えるときは、意匠登録を受ける権利を有する者の登録出願に係る意匠がその者の出願に係る考案又は発明の出願公開公報ないし出願公告公報記載の意匠に類似する意匠であるとして新規性を否定するについては、少なくとも意匠登録出願が右考案又は発明の出願公開又は出願公告の日から六月を経過していないものはこれに含めない解釈をとるべきである。

右の見地に立つて考えるとき、審決は、本件意匠登録出願が同一人の出願に係る実用新案登録出願の公開の日から六月を経過していないにかかわらず、該出願公開公報記載の物品の形状を公知意匠として本件意匠が該意匠に類似するものであることを理由にその新規性を否定したものであるから、審決には意匠法の解釈を誤つた違法があるというべきである。

第三 被告の答弁及び主張

一 請求の原因一、二の事実は認める。

二 同三は争う。審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

なお、本件意匠の内容が別紙第一記載のとおりであり、甲号意匠の内容が別紙第二記載のとおりであること、甲号意匠に係る物品が墓前花立筒であることは認める。本件意匠と甲号意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は審決認定のとおりである。

1 請求の原因三、1の主張について

花立て部の下端に脚筒を有する台座を嵌合した構成の墓前花立筒が、本件意匠の意匠登録出願前公知であつたこと、甲第九ないし第一二号証の各公報に原告主張の各内容の意匠が記載されていることは認めるが、審決が、本件意匠と甲号意匠の基本的構成態様としての一致点であるとした事項のうち、花立て部の下端に脚筒を有する台座を嵌合した点を両意匠の類否を左右する支配的要素であると認定、判断したことは誤りである旨の主張は争う。

2 同2の主張について

(一) 原告は、甲号意匠の花立て部の口径に対する底径の比率について、正しくは〇・六二であるところ、審決は約〇・五としており、前提たる事実の認定を誤つているから、審決の相違点1)に対する判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、審決は、「約〇・五」といつているのであり、「約」という語から明らかなとおりおおよその比率を表わしているにすぎない。意匠の類否判断は視覚による判断であつて、肉眼で観察するものであり、かつ、意匠を直接突き合わせて比較する直接対比観察ではなく、時と所を異にして各別に比較する間接対比観察によつてなされる。意匠の形状について、採寸した数値をもつて同一とか類似とかを判断するのではない。審決が比率を求めたのは、視覚を通じて把握された認識を客観化するための一表現手段として便宜上用いたにすぎない。時、所を異にして肉眼で看れば、花立て部の口径(一)に対する底径の比率を〇・六二であると正確に判断することは困難である。視覚によれば、半分程度か、半分より幾分長い程度と認識されるとみるのが自然である。

よつて、審決のいう「約〇・五」の認定に誤りはなく、原告の前記主張は理由がないものというべきである。

(二) 次に、原告は、花立て部の開口部の拡開の程度に明瞭な差異があり、それが、両意匠の美感に大きい差異をもたらしている旨主張する。

しかしながら、開口部に向つて拡開する湾曲線の長さ及び湾曲度は一致しており、形状に若干の差はあるが、その差は直接対比によつて認め得るにすぎず、時、所を異にする間接対比においてその差を認めることは困難であるから、原告の右主張は失当である。

また、原告は、両意匠の肉厚に差のあることを根拠として、両意匠は類似していない旨主張するが、両意匠に肉厚の差はあつても、その差は美感を異にする程の大きな影響を与えるものでなく、微差にとどまるから、原告の右主張も理由がない。

さらに、原告は、墓前花立筒の花立て部は、水を取り替える際、花立て部を台座から抜き取つて手で把持して観察されるものであるため、花立て部の軽快さ、鈍重さの差異は、視覚において敏感に感じとられるものである旨主張するが、意匠の類否判断は、「水を取り替える際」というような取引の場(市場)を離れた場面での使用状態を前提として判断されるべきものではなく、右主張も失当である。

3 同3の主張について

(一) 原告が本件意匠の台座の環状鍔部についていう「伏碗状」ないし「伏鉢状」とは、「平面の部分が全くなく、中央部から外周縁にかけて、その全体が同一曲率の四分の一円凸弧状の曲面をなしている」という形態を指しているが、審決も本件意匠の台座の環状鍔部について「全体を略同一曲率の四分の一円凸弧面状である」としているのであつて、原告の認識と審決の認定は同一である。

原告は、本件意匠の台座の環状鍔部の形態につき、審決と実質的には同じ認識に立ちながら、単にその形態に対する形容表現を異ならしめているにすぎず、審決は本件意匠の台座の環状鍔部の形状の把握を誤つている旨の原告の主張は失当である。

(二) 原告は、本件意匠と甲号意匠との間には、台座の環状鍔部の径の花立て部の口径に対する比率の相違に基づく明確な美感上の差異がある旨主張する。

しかしながら、墓前花立筒は、その名が示すように、また、その物品の用途、機能からみても、花立筒、すなわち花立て部を主体とし、意匠的にも花立て部が第一に注目されるところ、両意匠の花立て部は、共に開口部の径が底径より大きい過分数型になつているので、仮に花立て部のみに注目するならば、共に共通の美感を看者に与えるものである。そして、台座の環状鍔部についてみるに、両意匠の鍔部の高さは、花立て部の高さに比べて、共に据付面に這うように極端に低く形成されていて、両意匠を正面あるいは側面側から看ると、花立て部に対しての環状鍔部の存在感は格段に薄くなつている。しかも、環状鍔部は伏皿状であり、そのまま据付面に接地される。この種の物品の取引者間においては、墓前花立筒という特殊性から、通常、墓前への据付状態を想定しつつ彼此の意匠を比較するものであり、据付状態を想定する際には、環状鍔部の据付面側の径はそのまま据付平面となつている。このように据付状態において据付面の平面に吸収されてしまうような環状鍔部の径に対する注目度は、勢い低くならざるを得ない。

したがつて、両意匠の台座の環状鍔部の径の花立て部の口径に対する比率に相違はあるものの、「花立て部と台座とを嵌合した意匠全体の態様を勘案したとき、その印象が強く環状鍔の径の比の差異を凌駕し」という審決の判断は妥当であり、また、その結果として、花立て部に注目が集まり、環状鍔部の径の比の差異については、「両意匠の類否判断に与える影響はこの程度の差異ではいまだほとんど微差にとどまる」とした審決の判断もまた妥当であるといわざるを得ない。

よつて、原告の前記主張は失当である。

4 同4の主張について

(一) 原告は、審決が、両意匠の花立て部を台座に嵌合した態様において、脚筒部における底板は全く目視することができない部分であるとしているのは、事実の誤認であり、右事実誤認を前提として、底板を脚筒部の底部に設けたか段差部に設けたかの差異が両意匠の類否判断に影響を与えないものとした判断に誤りがある旨主張する。

確かに、脚筒部の底板は事実上底面側から目視し得るであろう。しかし、墓前花立筒の意匠の類否は、墓台石に据え付けた状態を目に浮かべながら比較されるのが普通であるから、脚筒部の底板は、意匠の類否判断において無視される部分である。したがつて、審決が、脚筒部における底板は目視することができない部分であるとみても必らずしも誤りであるということはできず、底板に関する前記差異が、両意匠の類否判断に影響を与えないものとした審決の判断は妥当であり、原告の前記主張は理由がない。

(二) 次に、原告は、四つの理由を挙げて、両意匠の台座の裏面(底面)の形状には、美感上明白な差異があり、類否判断に影響を及ぼすことは明白であるとして、審決の相違点3)に対する判断は誤りである旨主張するが、次に述べるとおり右理由自体いずれも失当である。

まず、原告は、右理由の第一点として、墓前花立筒は花立て部と台座の二つの部材から成るものであるから、台座の意匠も二分の一の割合で重要性をもつている旨主張するが、意匠の類否判断は、創作された意匠の要部を重視して判断するのであつて、意匠がそれに係る物品を構成する部材数に応じた割合で、単純に重要性を持つものではない。

右理由の第二点として、花立て部と台座とは、流通過程において別々に包装、梱包されるから、意匠を花立て部と台座とを嵌合した意匠全体の態様においてのみ評価することは許されないのであつて、審決の判断は、両意匠に係る物品の流通過程に置かれる状況を無視したものであつて誤りである旨主張する。

確かに、意匠の類否判断は、物品の流通過程に置かれる状況を勘案する必要があるが、それは、意匠的価値評価による物品の選択、すなわち審美感を吟味するに当たつて、流通過程ではいかなる観点でされているかの状況を意味するものであつて、意匠が評価される取引の実情に合わせて類否判断をしようとする趣旨に基づくものである。したがつて、流通過程といつても、審美感を吟味する取引の場を離れた、それとは無関係の流通過程まで意味するものではない。原告のいう、「別々に包装、梱包される」というのは、物品の運搬や保存の場における状況であつて、審美感を吟味する取引の場ではないから、意匠の類否判断がなされるべき、流通過程に置かれる状況に当たらない。

右理由の第三点として、台座につき、どのような墓台石への定着手段が講じられているかは、取引業者の最大関心事であるから、台座の裏面も注目される旨主張するが、右の点は、当該物品の性能、能力に関するものであつて、技術を吟味する取引の場におけるものであり、審美感を吟味する取引の場に関するものではない。技術(性能、能力)を吟味するために注目されるからといつて、その注目される部分の形態が意匠の類否判断の場で採用されるわけではない。

右理由の第四点として、台座の裏面から観察すると、両意匠の底板を設けた部位の差異、並びに甲号意匠におけるリブと本件意匠における底板に穿設された四角の孔との差異がある旨主張するが、右に反論してきたとおり、両意匠に係る物品の底面は、形態に差異があつたとしても、審美感を吟味する場合にはほとんど無視される部分であるから、右差異は、意匠の類否判断において評価するに値しないものである。

よつて、審決の相違点3)に対する判断は妥当であり、原告の前記主張は失当である。

5 同5の主張について

(一) 意匠法は、新規に創作された意匠の保護を目的とするものであるから、新規性の存在は当然要求される意匠制度上の大原則である。意匠法第四条は、この意匠法の根幹をなす原則に対する例外規定であるから、右規定の解釈は厳格にすべきであり、規定の範囲を越えた解釈をすべきではない。

原告は、意匠法第四条の規定の対象には、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して意匠法第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠に類似する意匠も含むと解釈すべきであると主張し、その理由として同一意匠について与えられる救済を、類似する意匠について否定すべき理由はないからであるとしている。しかしながら、仮に、同一意匠について与えられる救済を、類似する意匠について否定すべき理由がないにしても、意匠法第四条において、例外として救済される対象は、意匠法第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠と明確に規定されている以上、例外を更に拡張して、類似する意匠まで含むと解釈することはできない。

(二) 原告は、本件意匠の意匠登録出願の際に、新規性喪失の例外規定を援用することなく出願しておきながら、登録後の現段階に至つて当該例外規定の解釈論を持ちだしているが、これは不当な主張というべきである。けだし、例外規定による救済を受けるためには、その旨を主張しておく必要があるからである。

なお、原告としては、本件意匠を甲号意匠の類似意匠として登録出願することにより保護が得られたはずである。すなわち、本件意匠の登録出願時点においては実用新案登録出願の公開日から六月を経過していなかつたのであるから、まず、公開日から六月を経過する前に甲号意匠について新規性喪失の例外規定を援用して甲号意匠の意匠登録出願をなし、次に(同日出願でもよい。)、この甲号意匠を本意匠として、本件意匠を類似意匠として登録出願すれば、本件意匠は類似意匠として登録されたのである(現に本件意匠は登録になつている。)。

原告は、右の合法的救済手段を全く自由に選択できる立場にありながら、これを選択しなかつたのである。したがつて、原告が、右選択をしなかつたことにより不利益を負うのは当然であり、原告は、新規性喪失の例外規定の不備、欠陥について論ずる立場にはない。

右のとおりであつて、審決には、意匠法第四条の規定の適用、解釈につき違法な点はなく、原告の請求の原因四、5の主張は失当である。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一

<省略>

別紙第二

<省略>

別紙第三

<省略>

<省略>

(以下省略)

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